建築行政における押印は廃止されましたが縦割り行政は変わらず

ARMDS 都市建築設計機構

山口賢


地方都市の郊外で歯科医院の設計依頼を受けました。計画地には既存の医院が建っていますが、前面道路(県道)の拡幅に伴う立退き要請を受けての建替えです。敷地は十分に広く同一敷地内に県道からセットバックして新たな医院を建設することとしました。

敷地の周囲は田畑(ほとんどが休耕地)でまばらに住宅も建っているようなエリア、都市計画条件は住居系で厳しい規制は特にない地域です。いつもどおりに基本提案を携えて行政ヒアリングをしたところ。

・計画地の地目が農地である(建物が建っているのに)

・農業振興地区のため農業振興地区除外の審議が必要

・計画地の面積が一定規模以上なので都市計画法上の開発行為に当たる可能性

・埋蔵文化財の包蔵地域にあたる可能性

農業用水を管理する組合からの建設許可書の取得の必要性

建築確認申請前に以上のような審議や許可を受ける必要があることがわかりました。立退きを要求している県に上記手続きに対して協力要請しましたが「立退きに係る諸手続きは地主さん責任で対処してください」とのこと。今回の仕事は建築設計やデザインより行政対応、規制の解除の手続き業務が重要になりました。

まず地目の変更です。農業委員会に相談に行くと、従前より医院が建っており宅地並み課税がされている土地なので所定の手続きで農地から宅地への変更は可能とのこと、ただし農業振興地区の除外手続きが必要でそれは県の審議会を経て、除外許可証の取得が必要なのでまず県に行ってくださいと指示。県に相談すると、隣接する農地の地権者から宅地への変更に関しての同意書を取得したのちに審議会にかけて許可判断をしますとのこと。施主と一緒に近隣廻りをして同意書を作成し県に審議資料を提出。ここまで3ヵ月経過し県からの回答は3か月後。

地目変更の手続きと並行して開発手続きの予備審査に取り掛かります。計画地が1000㎡を超えるので開発申請の予備審査が必要とのことでしたが区画、形、質(地目)の変更がない旨を説明し本審査は回避しました。地目の変更について疑義があがりましたが従前から宅地並み課税がされていることで、地目の変更に当たらないことが確認されました。もし開発行為と認定されると審査だけで6か月ほどかかってしまいます。都市計画課から「開発行為に当たらない旨の証明書」を発行してもらいました。

次に埋蔵文化財の地域にあたる可能性から教育委員会と協議。調査工事を行うと6ヵ月から1年の間建築工事ができないとのこと。提示された地図を見ると埋蔵文化財が包蔵される可能性のあるエリアが色鉛筆でラフに囲われています。計画地の端っこがその色鉛筆に少し引っかかっていると担当者は言うのですが、1/2000の地図で1mmずれると2mです。調査対象から外してもらうために現地で長さを測って包蔵地域から離れていることを確認して「調査対象範囲外の判断書」を取得しました。

最後に農業用水を管理する組合との協議、この機関との協議は審査書類の提出と簡単なヒアリング、そして協力金の支払いで許可書を取得できました。

必要な許可書や審議書類を添付してようやく建築確認申請の手続きにこぎつけました。通常ならば建築図面が完成してから1ヵ月くらいで確認済証という書類を取得できるのですが今回は9ヵ月もかかりました。縦割り行政の体質が変わらなければ押印のあるなしは負担の低減や手続き期間の短縮には効果はありません。またこれらの手続きを施主に行わせることは経済的な負担にもなります。各機関は資料を書類で保管しておりまたメールや電話での対応はできず、ほとんどが窓口対応でした。電子申請やデータの共有ができればもっと簡易に手続きができて、縦割り行政を解消することができるのではないでしょうか。

手続きの話ばかりを書きましたが、しっかりと設計を行い順調に工事は進みました。もうすぐ歯科医院は完成します。


横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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