荻津郁夫建築設計事務所
代表 荻津 郁夫
ヨコハマNOW第44号(2013年12月号)、新しい建築とのかかわり方の第17回として、横浜の築50年以上の補強コンクリートブロック造2階建のアパート兼自宅の3分の2を切り離して解体してそこにコンパクトな住宅を新築し、3分の1は保存しながら「都会のど真中に住み続ける」という例をご紹介しました。保存された部分は、現在英会話教室、絵画教室として地域の様々な世代の人々との交流の場となっています。
【横浜の住宅】
横浜:既存建物改修後(左)と新築住宅(右)
今回は、既存の建物を生かして暮す他の例をご紹介します。
1つ目は、既存住宅の地下室を生かして上屋部分を解体し地上部分に増築した例です。検査済証が残っていない場合でも、専門業者による地下躯体の調査を行い鉄筋の量やコンクリートの強度などを把握し、再計算をすれば既存地下の上部に増築が可能になります。増築部は軽量化するために鉄骨造に不燃木材を貼ったエントランスラウンジとし、敷地奥に鉄筋コンクリート3階建の居住部分を繋げて一つの住宅としています。地下は解体するにしても新たに作るにしてもコストがかかるので、調査費用をかけても活用する価値があります。環境も安定し遮音も確保しやすいので、ホームシアターやワインセラーなど様々な用途にリニュウアルが可能です。
【東京都北区の住宅】
東京都北区:解体前(木造2階、地下1階)
地下躯体調査
地上解体後の地下躯体
増築後(既存地下上部に鉄骨造不燃木貼のエントランスホール、奥にコンクリート打ち放し部分が居住エリア)
2つ目は、築50年の木造建物の省エネ耐震改修の例です。
I型の布基礎(土台の下のみのコンクリート基礎)に鉄筋を緊結して新たにベタ基礎(建物全体に亘る基礎)を作り、腐朽した土台や柱を取り換えて、柱の外側に構造用合板を設置して耐震壁を作ります。さらにその外側に断熱材を貼り付けて建物全体の断熱性能を高め、このケースでは、床下に温風や冷風を吹き込んで建物全体を冷暖房するシステムとしています。
【箱根町:強羅花壇】
箱根強羅:改修前の建物の庭側
ベタ基礎設置の配筋
外壁の構造用合板貼
外壁の断熱材貼
改修後の玄関
庭側
3つ目は、築100年以上の商家の正面を保存しながら、中庭側に同形の切妻断面の鉄骨造を連続させて増築し地ビール工場としたものです。通りに面する明治期の商家の表情とは対照的なビール窯の見えるガラスのファサードが中庭の表情をつくっています。
【秋田市:あくらフォースクエア】
通りに面する明治期の商家のファサード
手前が明治期の主屋、奥が新築の地ビール工場
中庭側のファサード(右奥に明治期の主屋が見えている)
以上のように、さまざまな時代のさまざまな構造の建物を生かしながら、現代の生活の場として再生していくことができるのです。
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