2050年の土地活用

株式会社アマテラス都市建築設計

山口 賢


相続税対策としての土地活用の提案を求められることがあります。

相続事案が起こったときに賃貸案件の建った土地が相続対象として低税率となることから一般に賃貸マンションの設計を要望されます。しかし人口減少時代に入った現代において賃貸マンションは本当に有効なのでしょうか?相続対策として建物を建設してもそれが建設費に見合う収益を確保できるのか、また長期にわたって安定した収益を持続できるのか、将来にわたってその地域に需要があるのか。これからの時代どのような建物を作るのかが極めて重要になります。これからの高齢化社会での需要と、景気に左右されない収益分野そして地域に必要とされる施設の建設を考えることが一つの答えです。


クリニックモール(まちなかの診療所の集積)

国の保健医療政策では中小規模の総合病院を淘汰し、急性期病院(大学病院や救急医療病院)の充実と小規模の診療所を点在させるという構成で民間医療体制を築こうとしています。そこで診療所を集積させたクリニックモールという施設がとても有効になります。様々な診療科目が一つのビルに入っていることで、患者にとっては総合病院のように複数の診療科目を受診することができます。開業医にとっては複数の診療科目があることで患者の共有ができシナジー効果が期待できます。また他分野の専門医と協働することもでき、より効果的な診療を実施することもできるでしょう。クリニックモールを建設した地主にとっては地域に必要な施設を提供するという地域貢献ができ、景気に左右されないテナントビルとして長期にわたって安定した収益を確保することができます。


成功するクリニックモール

地域に愛され長期にわたる収益を獲得できるクリニックモールとするためにそのテナントである医者とその組み合わせ、そして立地と地域情勢の見極めがとても重要になります。

立地:

都市部では診療圏として半径800m程度を目安として人口密度が高いこと、駅から近いこと、街道沿い、商店街など視認性や集客性が良いこと。他に主要な病院や診療所が少ないことなど。また郊外では診療圏を半径3kmまで拡げて自動車での来院を考えながらその立地の有効性を検討します。

ドクターの構成:

高齢者が多いのか子供の人口が増えているのか?どのような診療科目が近隣にあるのかなど診療圏調査という手法を用いて近隣診療科目のリストアップとその開業継続年数、人口比率と各年代の人口増減、潜在的な患者数の推定を行って慎重にドクターの選択、構成を検討します。

例1:高齢化が極めて進んでいるエリアでのドクター構成

診療圏調査の結果透析診療の患者の集客が見込めるエリアであることから透析病院を中核に泌尿器科、内科、皮膚科、整形外科の構成としかつ透析患者を預かるサービス付き高齢者住宅を併用した計画とします。

例2:乳幼児人口が増加傾向にあるエリアでのドクター構成

高齢化が進む日本ですが一部の都心部では子供の人口が増えているエリアが散見されます。このような立地では小児科や産婦人科を中核に据えたクリニックモールを計画します。敷地に充分な余裕があれば保育園を併設して病児保育ができる保育園を整備することも有効です。

例3:近傍に繁華街がある立地でのドクター構成

繁華街(風俗街)が近傍にあるような立地では美容整形外科、性病科、皮膚科などの診療科目を組み合わせ、夜間診療に対応させそのニーズをよく考慮したクリニックモールとします。商業地域での計画の場合容積に余裕がある場合が多く診療所に加えてワンルームマンションや簡易宿泊所などを併設させることもあります。

このように立地にベストマッチしたドクター構成とすることで地域の需要に応え、患者を獲得し安定した医院運営を行うことで優良なテナントとして長期収益を実現させます。


高利回りのクリニックモールの収支

私の事務所では建設投資額に対して表面利回り10%~14%程度の収支を実現するクリニックモールを設計しています「建設費をできるだけ低く家賃収入をできるだけ大きく」設計上共用部分の比率ができるだけ小さくなるような導線計画を行い、専有部分を最大限確保するように計画します。また医院の街路に対する視認性の確保やクリニックモールとしての美観も集客につながる要素ですので慎重に設計を行います。都市部でのクリニックモールでは客導線を単純化して視認性を高め、駐輪場の整備や診療後に休息のとれるラウンジを設けることなども建設費をそうかけることなくクリニックモールの価値を高め集客につなげます。またランニングコストがかからないような設備計画や意匠計画とすることも大事です。家賃についてですが、診療所の家賃設定は路線価などからの相場を鑑みながら算出するので通常のテナントビルとそう変わりません、しかし複数の診療所が一か所に集まったクリニックモールでは調剤薬局を誘致することが可能になります。調剤薬局は各診療所からの処方箋の数に応じてその利益が決まります。処方箋を多く出す診療科目が集まった場合にはその収益に応じた高い家賃設定が可能となります。最近では15,000円/坪~30,000円/坪という高い家賃が実行されています。またドクターとの賃貸借契約は通常15年から20年の長期契約を結びます保証金の保全などの特約条項も契約しますので契約上も長期のビル運営が可能になります。


安定したビル運営を実現する設計活動

地域貢献と共に高い収益を長期に渡って獲得できるクリニックモール。私の設計チームではドクターの誘致と開業支援、その後の医院運営コンサルテーションも継続して行い安定した医院運営を目指し長期優良テナントとなるようにサポートし、ビルオーナーの安定した家賃収入につなげます。また建物のデザインにおいては都市景観に配慮したデザイン、緑化や地域の人々が気軽に立ち寄れるポケットパークなどを計画し地域に愛される建築空間を目指して設計活動を行っています。

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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