地震で倒れない建物にするために-大地震の教訓から

(株)北島建築設計事務所

建築家 北島俊嗣


熊本大分地方で起きた大地震でお亡くなりになられた方々のご冥福と、被害に遭われ避難されている方々の一日も早い復興をお祈りしております。


日本中で起きている強い地震

平成の時代に入って28年が経っていますが、マグネチュード7程度もしくはそれを超える大地震はたくさん起きています。

阪神淡路大震災(平成7年-M7.3)

鳥取県西部地震(平成12年-M7.3)

宮城県沖地震(平成15年-M7.1)

十勝沖地震(平成15年-M8.0)

新潟県中越地震(平成16年-M6.8)

福岡西方沖地震(平成17年-M7.0)

宮城県沖地震(平成17年-M7.2)

能登半島地震(平成19年-M6.9)

新潟県中越沖地震(平成19年-M6.8)

岩手宮城内陸地震(平成20年-M7.2)

東日本大震災(平成23年-M9.0)

熊本地震(平成28年-M7.3)

日本国中で地震が起きていることが判ります。不幸にも地震で建物が倒れてしまい、命を落とされた方々や、家を失い避難生活を余儀なくされた方々が沢山居られます。方々の悲しみや苦労を、今を生かされている私達は教訓に変えていかなければなりません。地震はどこでも起きると考えなければなりません。

そこで敢えて、地震で倒れてしまった建物はどんな建物であったか、そして直ぐにでも来るかもしれない地震で倒れてしまう建物から命を守るのはどうすれば良いのかを、お話ししたいと思います。


地震で崩壊した建物の共通点

強い地震が起こり、直後の報道で伝えられる被災した建物には、ある共通点があります。それは、

(1) 昭和56年以前に建てられた建物

(2) 1階が駐車場で開放されている建物(ピロティ)

(3) 屋根が瓦で葺かれている木造の建物

(4) 石が積まれただけの擁壁やガケ

です。

皆様の周囲に当てはまるものはありませんか?「東日本大震災には耐えたから」という自己判断は、直下型の大地震には通用しません。

(1) 昭和56年以前に建てられた建物

建物の耐震性を確保する耐震設計の基準は、昭和56年に建築基準法が改正されて、大きく向上しました。この昭和56年より後に建てられた建物を「新耐震建物」と呼び、それ以前に建てられた建物を「旧耐震建物」と呼んでいます。平成に入って起きた地震で、この「新耐震建物」が大きく崩壊してしまった報告は余りありません。逆に強い地震で倒れてしまった建物の共通点は、昭和56年以前に建てられた「旧耐震建物」がほとんどです。この「旧耐震建物」で、直ぐに建替えることができない公共の建物は、耐震診断がなされ、耐震改修を施す措置が急がれているのです。「旧耐震」の耐震設計基準は、揺れる地震力に耐えられる強度を持っていなくて、柱が折れたり倒れたりして、屋根や上部構造が下部を押しつぶすように倒れています。

(2) 階が駐車場で開放されている建物(ピロティ)

地上階が駐車場等に利用されていて、柱だけが並んでいて壁もなく、開放されている部分を建築用語で「ピロティ」と呼びます。この上に箱状になった建物が載せられていて、マンションの住居部分であったり、事務所ビルが載っていたりします。地震で建物が揺れると、上の箱状の部分は箱のまま水平方向に揺れますが、地上1階のピロティの柱は、上階の箱を支えつつも箱の揺れに追随しようとします。しかし揺れが強いと、上階の箱の揺れのエネルギーは全て地上1階の柱に集中し、柱は支え切れずに押し潰されるように座屈(ざくつ)するか、なぎ倒されて、上階の箱がまるでダルマ落しで地上1階がなくなってしまったように地上に崩れ落ちています。

(3) 屋根が瓦で葺かれている木造の建物

昭和56年以前に建てられた木造の住宅で、屋根に瓦が載っている建物が崩壊している状況は沢山報道されています。そもそも耐震性が低い建物の構造で、さらに重量からすると重たい瓦が屋根に葺かれていると、その重量が揺れを大きくし、木造の柱や梁が耐えられず崩壊してしまうことが多い様です。人も何も持たない場合は身軽に行動できますが、重たい荷物を担いだりすると、自由に行動できません。さらにその重たいものを頭上で支えているとすると、少しでも他から押されたり引っ張られたりすると身体の自由をなくし、押されたり引っ張られたりした方向に身体を動かしてバランスを取ろうとします。そのとき足が固定されていれば、バランスが崩れ倒れてしまったり、重たいものを落としてしまったりするでしょう。地震で崩れた木造住宅では、重たいものが瓦で、崩れた体が木造の柱や梁でした。

(4) 石が積まれただけの擁壁やガケ

平坦な土地が広がる地域では稀ですが、丘や起伏のある坂道が多い地域で、斜面地に建物を建てる土地や少しでも広い平坦な土地を設けるために、削ったり盛ったりした土を崩れないように留めておくために、石やブロックを積んで土留めや擁壁にしてあるところがあります。この石やブロックが相互に連結していなくて単に積んであるような石垣や擁壁は、地震の揺れで崩壊してしまうことがあります。熊本城の石垣が崩れてしまう映像をご覧になった方も多いと思います。ご自身の自宅や隣り裏側のガケ、駅までの道の坂や階段の側面のガケ、特に地面に垂直に立っているものは要注意です。

今ある状況は様々な要因で存在しますので止むを得ませんが、将来あるかもしれない大きな揺れに対して、今出来る備えをしておくことが、今を生きる私達にとって大変重要な使命だと思います。

耐震建物の技術的基準

現在定められている建築基準法における耐震基準の方針は、「震度6強の地震に見舞われても人命が確保できること」とされています。つまり、震度6強の地震で建物が崩落しないで、人が避難できること最優先しています。その場合、建物が多少壊れてしまうことは許容されていて、引き続き建物を利用できることとはされていません。もし、引き続き建物を利用し続けるようにするためには、さらに耐震強度を上げなければならず、それは費用に反映され、建物を利用する生活にも支障を来すことになるので、現在の耐震性能基準をさらに高める方向は求められていません。

しかしながら、今回の地震で、昭和56年以降に建てられた建物でも、震源に近い益城町の建物は、震度7に2度見舞われているので倒壊してしまったという報道があります。

ただし、市役所や消防署をはじめとする行政施設には、地震後も災害救助施設や避難施設などとして継続利用が求められているので、耐震性能の向上は求められています。

地震で崩壊しない建物にするには

今建っている建物がこれから来る大地震で崩壊しないために、私達が出来ることは何でしょうか?当然ながらそれには予算や様々な制約条件があるでしょう。ただし人命に代わるものはありません。熊本地震をはじめとする大地震に私達が学び、行動に移さないといけないことは、

建物を新耐震建物に建替えること

耐震診断を行い、耐震性能が不足している場合は耐震補強改修を行うこと

寝室や居間等を耐震シェルターに造り替えること

寝床を耐震ベッドにすること

などと、予算に合わせた方法があります。

建物全体を建替えたり、耐震補強改修が出来る場合を除いて予算が厳しく、対応が出来ないことが沢山あります。そのような場合は常に居る場所の防御を行うことも大事な方法です。夜間就寝している場合に起こった熊本地震のような場合には、役立つ方法ですので導入をお勧めします。

日本国中で起こる大地震には、備えることが一番の対処であることに間違いはありません。

住まいや建物の耐震性能に係わる診断やご相談は、必ず設計事務所にご連絡下さい。

(株)北島建築設計事務所 建築家 北島俊嗣


横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

0コメント

  • 1000 / 1000