荻津郁夫建築設計事務所
荻津 郁夫
10月の中旬に小田原と京都に行ってきました。
そのなかから、京都では400年前に造られた桂離宮、小田原ではこの10月にオープンしたばかりの江之浦測候所、それぞれ月と太陽にこだわった建築の訪問記です。
桂離宮はもともと観月のために建てられたともいわれています。書院には月見台と呼ばれているデッキテラスがあり、月波楼という池の水面(波)に映った月を眺めるための離れもあります。それらの建物は正確に当時の中秋の満月の月の出の方向を向いており、高床式にしたのは、一刻も早く月の出を見るためとの説もあります。
建設当時の中秋の満月の方向に正確に向いている書院群
月波楼月見台
紅葉の馬場から松琴亭という茶室の方向は冬至の月の出の方向
紅葉の馬場の向う方向は当時の月の出の方向
必ずしも月が出ていなくても、庭を巡ると次々に現れる新たな場面(風景)への驚きは、月の方向を手掛かりにしてたくまれたものに違いありません。
江之浦測候所は現代アート作家杉本博司によるもの。こちらは冬至・春分・夏至・秋分の日出の方向に向けられたさまざまな構造物が仕組まれたランドスケープアート。さらに古代から現代までの建築物の断片がいたるところに埋め込まれていて、これからも造り続けられるいわば知的なワンダーランドといったところです。
冬至の日出の方向に突き出した鉄板の隧道、奥に見えるのが夏至の日出の方向に向かう
100mギャラリー、左はガラスの舞台
夏至光遥拝100mギャラリー
冬至光遥拝隧道
冬至の日出の方向に向かうガラスの舞台
一方が武家社会において様々な運命に翻弄されながら月に想いを映し出そうとした皇族の別荘で、他方は世界的な現代アーティストの壮大な構想の一つの到達地。
規模や用途はわれわれの日常とはかなりかけ離れていますが、われわれの日々の暮らしも実は古代から太陽を拝み月に思いを託すことでつながってきたのではないかとも思えます。建築家の仕事も生活の便利さ機能の充実の実現以上に、月の光や雨の音、木漏れ日や風のざわめき、花の香りや虫の声といった暮らしの根幹をなしている自然とのかかわりを伝えていくことではないかと感じた旅の一幕でした。(2017.10.31)
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