悩み多き現代的家づくり

acca建築研究所

岸本 和彦


戦後近代化の過程を経て、この日本から田舎は無くなったと言われています。戦前は当たり前にどこでもいた一次産業従事者の多くは都市住民となり、所謂ホワイトカラーと呼ばれる人になりました。その流れがあまりにも急激だったために、我々、動物身体としての本能が都市化についていけない事態があちこちに綻びとして生じています。都市住民の抱える多くのストレスは、意識が優先される現代社会が原因として指摘されます。この場合の意識とは計画と読み替えることが可能で、つまり未来(将来)を予測して計画せよ、と社会、あるいは会社から強要されることが原因です。本来、明日のことなど誰にも分かりません。しかしそんなこと言ったら会社をクビになります。しかも計画の通りにならなかったら、場合によってはやはりクビです。そんな絶対的矛盾、あるいは精神的抑圧がストレスを生んでいるとも言えるのです。

さて本題に戻りましょう。もし過去に家造りを経験した方ならば、例外なく身に覚えがあると思いますが、そもそも家の大きさ(坪数)、部屋数、部屋の大きさ、とりわけリビングの大きさはどのくらいか? といった数字が支配する物差しの数々について苦しんだことでしょう。それは、将来子供が何人生まれて、から始まり、子供が居座ったり出て行ったり、物は何が増えて、自分は何歳まで元気で生きて、車いすの生活になるかどうか、等々。将来に対する不安と不透明さは挙げだしたら切りがありませんが、それに悩み疲れて結果として「大きな家」を買い物してしまうパターンも多いと思います。しかし、それは決してよい解決策とは言えません。その証拠にその大きな家は結局だれも相続することなく取り壊され更地にされる例がとても多いからです。ではどうすれば良いのでしょうか。おそらくその答えはご本人の身体に隠されているはずです。まじめに考えれば分かることですが、家は人が居るための空間で、その大きさは人の尺度(寸法)が基準となっていなければなりません。人がひとり居るときに気持ちが良くて、必要にして十分な大きさってどのくらい? と考えてみればよいのです。ただ座って気持ち良く過ごすのでしたら、おそらく0.5畳くらい。では将来、子供も増えて荷物も増えてどうすればいいの? という方もいらっしゃるでしょう。はい、誰にも分かりません。分からないことを、唯一絶対的回答があるかの様に勘違いするから、焦って疲れて、最後に無駄な家を造ってしまうのです。ぼ~っとしたり、本を読んだり、昼寝をしたりしゃべったりご飯食べたり、たまに友達よんで気ままに居たいところに居て酒を飲んで、子供が増えたらどこかに居場所を見つけて、といった昔はごく普通にやっていたと思われる環境に応じて適応すること、生活を適宜シフトすること、もっと言えば偶然の出来事を楽しむことをシーンに置き換え、丁寧に積み重ね、その一つ一つに適切な尺度を与えてみましょう。おそらく、出来上がった平面図は20坪くらいになるのではないでしょうか。そこからゆっくりと贅肉を付けていけば良いのです。それが身の丈にあった家というものです。


コンパクトな居場所が絡み合う終の棲家「ソラニタツイエ」 photo © 上田宏


最大6人も入れる僅か2畳のダイニング「House-H」
photo © 上田宏


家の中で一番人気の2畳の畳の間。「余白の杜」
photo © 上田宏

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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