気になる建物は、かけがえのない風景かもしれません@旧根岸競馬場一等馬見所

古川都市建築計画一級建築士事務所

古川達也


縁あって家族で横浜市に住んで20年。同じ市内に建築設計事務所をかまえ、公私とも横浜の街や出来事、人々に触れ合う暮らしの中で、日々その空気感を感じて過ごしています。

新しいモノやコトを速やかに受け入れる横浜の柔軟性に驚きながらも、一方で味わいある古びた佇まいが残り濃い陰影をうむ横浜。古い建造物が残りその存続がよく議論されます。

例えば、近所で非常によく行く根岸森林公園は、1866年から1942年まで76年間競馬が行われた競馬場でした。居留外国人の娯楽として始まり、やがて日本人も加わった社交場として賑わい、その後各地に設立された洋式競馬場のモデルとなったと言われています。公園の一角に現存する「旧根岸競馬場一等馬見所」は、1929年に完成した巨大競馬場施設全体の概ね3分の1を残した、客席スタンドの遺構です。

「旧根岸競馬場一等馬見所」遺構。2018年10月6日撮影。
シンポジウム開催に合わせて行われた見学会の様子。
細田守監督の映画「未来のミライ」で登場する印象的な風景でもあります。


競馬を行わないので、スタンドとしてはもちろん使われません。利活用のあてなく日々の劣化とともに、近寄ることも危険です。しかし、どこかミステリアスな気配と佇まいは気になる存在。それもそのはず、単に暮らしの利便で建てられた建物である以上に、二度と作られることのない、決して生まれることのない建造物。地域の歴史と記憶を後世に伝える、かけがえのない風景と思うからこそ、簡単に解体出来なかったのではないでしょうか。

「旧根岸競馬場一等馬見所」は、東京の旧丸ビル建設をサポートするため来日したアメリカ人建築家J.H.モーガンの設計。その実物外観見学会と、モーガンを語るシンポジウムが開催されました。いつも見ている建造物ですが私も見学会から参加。シンポジウムでは 「様々な活用方法を検討するためにも、まず現況調査が必要。(関東学院大学教授の水沼淑子氏)」 「3Dによる記録データを残すことも大事。(JIA神奈川の笠井三義氏)」いずれも、当たり前のように思えて、実は具体的調査が建物存続の客観的ジャッジメントに繋がることを示唆する重要な見解です。さらに、作成されるデータが再生や再現などの、未知なる検討にも役立つことが伺えた、大変有意義な機会でした。

気になる建物は、かけがえのない風景かもしれません。未来の新しい暮らし「新しい建築とのかかわり方」を考えるとしたら、「古い建築との新しいかかわり方」も同時に考えていきたいと思っています。  古川達也


根岸森林公園、馬の博物館イベントホールで開催された、
モーガンを語るシンポジウムの様子。

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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