くさってもたい、くさってもいい?

アーキキャラバン建築設計事務所

代表 神田雅子


 腐っても鯛。「本来上等なものは、たとえ腐ってもその価値や品格を失わない」という意味で使われるが、本当にそうだろうか。冷蔵庫の肉や魚がくさっていたら普通は食べない。家がくさったらマズい。自分が設計した家が簡単にくさったりしたら、それはかなりマズい。

 今春、建築に関わる仕事をする女友達と4人で『くさる家に住む。』という本を出した。いい家をつくり、豊かな暮らしを営んでいる10の住み手とその家を訪ね取材した本だ。 木の家もあれば、集合住宅、テナントビル、コレクティブハウスもあり、また、セルフビルドの家も紹介している。思いのほか多くの方に読んでいただいていて、自分で言うのもなんだが、なかなか評判がいい。ところが思わぬ誤解もあって、私が設計する家はくさってしまうと思われることがある。この場で明言します。それは違います。

 この本で使った「くさる」という言葉には、いくつかの意味を込めたのだが、それはここでは割愛する。なぜそんな衝撃的なタイトルになったかといえば、ある取材先でご主人が「くさる家に住みたかった」とさらりと言ってのけたから、それを頂戴したのである。その家は木と土と藁でできていた。それらはくさるものであるが、雨から上手に守り、手を入れ続けて彼と子供たちが暮らし、いつかその使命をまっとうした時に産業廃棄物にはならずに土に還るのである。

 ノーメンテの家がほしいと言われたら、どのように応えようか。私は破れない障子は好きではないし、有害なものを含んだ建材も使いたくない。食べ物にしても、くさらないものはなにかおかしい。だからといって、くさるものだって特別手がかかるわけではない。雨ざらしにしておけばくさる木でも使い方を工夫した設計をすれば十分に長持ちする。日本の家はたくさんの知恵を引き継いできているのだ。住み手だって気に入った家ができたら大事にするし、多少のメンテナンスもしたくなるにちがいない。愛着を持って大事に住んで、長い後にその役目を終えた時にはくさって土に還る。そういう家を現代の技術とかたちでつくりたい。

「くさる家に住む。」(六耀社)

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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