荻津郁夫建築設計事務所
代表 荻津郁夫
2012年5月、AA STUDIOでの出会いから始まったプロジェクトが2013年末に竣工を迎えます。
築50年以上の補強コンクリートブロック造2階建のアパートを所有されているクライアントが、ご自分が生まれ育ったその場所にこれからも住み続けると決断されてAA STUDIOを訪問されました。3人の建築家と面談の結果、私が設計を担当することになりました。
直前まで住まれていたその建物は、昭和30年代のシンプルなモダニズムの面影を色濃く残したデザインで、構造調査の結果も強度的に現在の耐進基準にも適合しうるものでした。しかし、15室の大半が4畳半の個室で、共同炊事場、共同トイレ、浴室なしというアパートは、銭湯の数も減った現代では、新築当初の都市機能として果たすべき役割を終えたといった風情で佇んでいました。
設計に先立ち、4つの計画の考え方を検討しました。
既存建物の躯体は保存して、すべての内装と設備を更新して住宅として必要な機能を満たすリフォームを行う。
既存建物の1/3を解体し、キッチン・浴室・トイレ等水廻り機能を新築し、その他の住宅に必要な機能は残りの既存建物を改修して対応する。
既存建物の2/3を解体し、残りの敷地に住宅としてすべての機能を持った建物を新築する。
既存建物はすべて解体し、新たに住宅を新築する。
さまざまに検討、議論を重ねた結果、既存建物の 1/3 には地下室がありその解体に費用がかさむこと、3階建にすれば敷地の 2/3 程度に必要な住宅機能が収まること、ご自分が生まれ育った建物をできれば一部でも保存したいという思い、残す既存の建物が都会の雑踏や喧騒からの防御に有用であること、などから ③ の考え方:「地下室のある部分の切り離し保存+コンパクトな新築」で進める決断に至りました。
切り離し解体の場合、もともと室内用の壁を外壁として機能を果たせるように防水加工する等、さまざまに手のかかる工事にはなるのですが、横浜の歴史や文化を体現する建築であり、クライアントの思い出が凝縮された建築を一部保存しながら、防御的かつ光にあふれた新しい建物が都会のど真中に楔を打ち込むようにもうすぐ産声を上げることになります。
解体直前の既存建物
切り離し解体後の既存建物
既存建物の切り離し面
既存建物改修後(左)と新築住宅(右)
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