横浜の都市景観を考えながら、建築の文化的側面の復興をめざす大切さ

山口賢 / Satoshi Yamaguchi

株式会社アマテラス都市建築設計

A M A R T E R R A N C E


 最近たずさわる仕事では「この建物はどれくらい利益がでますか?」 と始まるケースがとても多いです。建築が投資対象であることからクライアントの興味は、まずお金の組立となるわけです。 土地の評価、建設費の概算、期中金利や保険費用などを算出して支出全体の把握。ついで賃貸ビルであれば家賃設定とリーシングの可否に収益予想。 このプロセスでは建築計画の課題である、形態の美しさやプロポーション、素材の肌理、環境との調和や景観とのバランス。 使いやすさや構造的な合理性などは計画の評価にはほとんど上がりません。

 もちろん計画の経済的合理性が確認されればある程度、建築の美については議論されることとなるのですが、多くのクライアントは「デザインはお任せします」と建築の文化的側面にほとんど興味がありません。

 建築はどんなに小さなものでも街中に建設された瞬間から社会性を帯びます。 景観や環境に影響し始めます。 その時に経済的側面だけで建築が構成されると様々な問題を起こすこととなります。 住宅街のスケール感に合わない高層の集合住宅や、容積率だけを充足した四角い箱の建築。 そして歴史や文化、場所性を無視し集客だけを目的とした商業施設群。私たちの住む横浜の街に経済的合理性を優先させた建築があふれています。 建築行為の投資的な要素は経済活動の一環であることからそれを否定することはできませんが。

 開港以来150年の横浜を振り返って見ても、建築が貿易や産業と深く結びついて都市が作られています。 生糸検査場や銀行、赤レンガ倉庫や貿易商のオフィス。 現在横浜関内地区に現存する歴史的建造物全てが経済活動の中から創りだされています。 しかしながら現存する歴史的建造物たちは、注意深く配置が検討され、建築様式にしたがってプロポーションや形態、素材が採用され港町横浜の雰囲気を形成する一役を担い、建築の文化的側面も十分に考慮されているのです。

 横浜関内エリアの歴史的建造物は1984年の横浜市の調査時には約90棟ありましたが、2011年の日本建築家協会の調査では約50棟しか確認できませんでした。 これらに置き換わった建築のほとんどが経済的合理性を優先させた建築です。 現代建築の経済性や投資性を拒否することはできません、しかし建築の文化性の復権を企てなければ、ますます横浜の横浜らしさが失われ、人間味のない四角い町が拡がるばかりです。 今私たちは横浜の都市景観を真剣に考えなければなりません。

 私達が所属する日本建築家協会神奈川地域会では横浜の都市景観を考えるためのシンポジウムを開港記念会会館で開催しました。 市民と一緒に建築の文化的側面について考えていく場です。これらの問題に関してシンポジウムや展覧会など様々な取り組みを行なって参りますのでご賛同ください。

 日本建築家協会の全国大会が11月30日神奈川県民ホールにて開催されます。 法政大学教授の田中優子さんをお招きして 「江戸から学び未来に繋ぐ 持続可能で幸福な社会のための環境を問う」 と題して基調講演が企画しています。 街づくりのヒントが聴けると思います。入場無料で視聴者を募集しております。 詳しくはWEBサイトをご確認ください。

JIA神奈川:[景観]の本質を考えるシンポジウム「美しい景観が住みやすい街をつくる」2012年7月10日(横浜開港記念館大講堂)

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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