ポストコロナの住まい

鈴木アトリエ一級建築士事務所

鈴木信弘・洋子



武漢で新型コロナウイルス感染症が発生というニュースが流れた当初は、まさかここまで酷い事態になるとは予想もしませんでした。オリンピックは延期、スポーツは無観客試合、店は閉店、会社にも出勤できないとは。

一方、すでに普及したインターネットのおかげで、大学の講義は遠隔で行い、ZOOM会議を1日に数回、誰とも会わない中で仕事をし、いろんな行政手続きもネットで行うという日々を過ごすうちに、気づいてしまったことがあります。それは不要不急のモノ・コトが意外に身近に沢山あったということです。

例えばテレビ番組。遠隔画面で登場するコメンテーターのパネルを見ていると「このコメンテーター、居なくてもいいじゃん!」と思いはじめ、ラジオ放送ではナビゲーターが皆自宅からの出演なのに全く違和感がなく、「収録スタジオって、必要なのかしら?」と考えてやりしてしまいます。さらに出勤せずにテレワークでの仕事、打ち合わせが日常になってきたら、会社のオフィス自体に多額の維持費を掛けているのが、なんだか馬鹿馬鹿しくなってきました。

これは職種にもよると思いますが、私たちのようなある種のサービス業は、その傾向が強いかもしれません。(アメリカで最も優秀と言われるミネルバ大学にはキャンパス(校舎)がなかったことを思い出しました)

つまり、今までなら「ある」のが当たり前と思っていたヒト・コトの多くが、本当に必要?と、改めて考えさせられ、疑問符がつき始めているように思うのです。(とはいえ、ライブハウスと居酒屋がなくなってしまうのは個人的にとっても困るなあ)

そもそも近代の都市と経済繁栄は、つねに集中化と巨大化によって成し遂げられてきたわけですが、その構造自体が崩壊し始めているのかもしれません。

これからの生き方を考えざるをえない、ポストコロナ時代が始まりました。

さて一方で、今までよりはるかに長時間過ごすことになった「住まい」に関しては、皆さんがとても敏感になってきているように思います。

仕事で外に出ている時間が多かったため、家の居場所がないことに気付かなかった夫、日中家族が出かけてくれることがどれだけ平穏だったか気付いた妻、リビングを占領する子供のゲームの音に苛立ち、テレワークの居場所以上に集中する場所のない家の中。家族のそれぞれが今までは感じなかった「住まい」への不満と欲望、そして住まいの大切さに気づき始めていると思うのです。

今までは、時短と効率ばかりを考えていた「住まい」の家事も設備も、ちょっと違った角度から検証されるべき時が来たのだと思うのです。浴室・トイレは洗う・落とすという最小限の機能よりもリラックスしたい、といった要素が欲しくなりますし、キッチンでは時短調理の電化製品よりも調理を楽しむ時間を大切にしたいと思い始めているのだと思います。椅子やテーブルなども同様、モノに対してはリアルな触覚が欲しくなり、長く愛着の持てる一緒に歳を取れる道具が欲しくなってきているはずです。

このように住まいにおいては効率よりも「居心地」「居場所」が大切であるとの認識を持っていただけることはとても歓迎すべきことです。普段から住宅設計を通して、お客様と「住まい」を考えている私たち、町の建築家がようやくみなさんに必要とされる時代が来たのかもしれません。

ポスト新型コロナ時代は、社会に、外部に、会社に、居場所を求める時代から、住むところも自由、住み方も自由になるはずです。働く時間も、働き方も変わり、それに伴い暮らし方・生き方も意識が変わるでしょう。そして、この自由をきちんと受け止め、今までの「あたりまえ」に囚われない良質な「居心地と居場所」が住まい、あるいは新しい空間に必要になる時代が来たと考えます。

そんな空間づくりを一緒に考えていけるのが住まいの設計者、住宅の建築家です。皆さんもこの機会にぜひ、住まいに関する話し相手、生涯のパートナーを探してはいかがでしょう?


挿入した写真はすべて、私たちがお客様と話し合いながら一緒に設計した「家を楽しむための仕掛け」の一例です。それぞれの住まい手は、どんな考えでどうしてこうしたのか?を想像してみるのはどうでしょう?

今回の新型コロナによって多くのお客様が自宅での生活を長く過ごすことになり「頑張って作ってよかった、今は家での暮らしを楽しんでいます」と多くのメールをいただきました。

横浜・神奈川|暮らしをデザインする建築家|AA STUDIO

神奈川県、横浜市の建築家を中心とした建築家グループ。住宅や各種施設設計の経験豊かな建築家メンバー自らで運営し建築家の紹介、建築家コンペのコーディネートなどの各種サービスを行っています。

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